犬の血管肉腫(脾臓・肝臓の腫瘍、ショック)

血管肉腫は、血管内皮細胞に由来する腫瘍で、様々な臓器に発生します。最も脾臓に発生しやすく、次いで心臓、皮膚、肝臓などにも認められることがあります。進行速度が早く、転移率が非常に高いことで知られる悪性腫瘍です。

特に怖い点として、血液を豊富に含むため出血しやすく、腹腔内で大量出血してしまうと、ショック状態となり救急処置が必要になります

 


診断

診断は発生部位をふまえ、画像検査や生検を行い総合的に判断します。しかし、血液を多く含む腫瘍に対する針生検は、サンプルが血液により希釈されてしまうことで評価が難しく、また出血のリスクが高いため、症例によっては手術で摘出し病理組織学的検査を実施するまでは診断がつかないことも少なくありません

 


治療

治療法は発生部位にもよりますが、外科的切除が第一選択となります。しかし血管肉腫は転移率の高い腫瘍のため、術後化学療法が必要になります。これらの治療を組み合わせても平均的な予後は半年と言われています。


症例1

1症例目は体調に問題はなく、トリミングに来院されたミニチュアダックスです。トリミング前の診察時に腹部に赤色の結節を認め、細胞診検査を実施しました。

細胞診検査では紡錘形から多形性の間葉系細胞が多数採取され、悪性腫瘍が疑われました。

他に症状もありませんでしたが、悪性腫瘍の可能性をお話し、全身の検査を行ったところ、軽度の貧血や肝臓・脾臓には転移所見と思われるターゲットサイン、腹腔内リンパ節の腫大を認めました。

以上より血管肉腫の全身転移の疑いと診断しました。

手術不適応のため、緩和的治療として抗がん剤を提案しましたが、経過観察することになりました。残念ながら、本症例は診断から5日後に亡くなりました。


症例2

2症例目は突然食欲元気がなくなり、ぐったりした状態で来院したコッカースパニエルです。全身の検査を行ったところ、中等度の貧血と肝臓腫瘤、またその内部での出血を認め、肝臓腫瘤からの出血性ショックの疑いがあると考えられました。

緊急で輸血を行い、麻酔下で肝臓腫瘤の摘出を行いました。

摘出した腫瘤は病理組織学検査では血管肉腫と診断され、同時に摘出した大網部の腫瘤は血管肉腫の転移巣とわかりました。本症例は術後3週間で亡くなりました。


症例3

3症例目は健康診断で来院した14歳のミニチュアシュナウザーです。身体検査で上腹部の張りを認め、レントゲン、超音波検査で脾臓に大型の腫瘤が見つかりました。

発生部位と超音波検査の特徴的所見から、血管肉腫の疑いと判断し、外科的切除を行うことにしました。病理組織学検査の結果、血管肉腫と診断しました。

血管肉腫は転移率の高い腫瘍のため、術後の化学療法を併用することが推奨されますが、本症例は飼い主様の希望もあり化学療法は行わず、術後転移がないかのモニタリングを続けることとなりました。

術後半年経過していますが、転移の所見は認めず経過は良好です。


飼い主様へのアドバイス

1例目はトリミングに来られるほど元気だったにもかかわらず、身体の中では大きな病気が進行しており、わずか5日で急死という転帰をとってしまいました。また、2例目もショック状態で来院し、輸血や手術もしましたが短命に終わってしまいました。

このように血管肉腫は無症状のうちに進行し、発症したタイミングでは重篤な状態である事が多い腫瘍です。ペットホテルやトリミングに元気で預けたのに、突然体調の変化が起こることがあり、サロンや飼い主様とのトラブルの原因になる事も想定されます

 

当院ではトリミング前に身体検査を行い、異常がない事を確認してからお預かりをしていますが、それだけでは病気の発見が出来ない事もあります。そのため、身体検査に加えて血液検査・画像検査を含めた健康診断を定期的に行い、早期発見・早期治療をすることが重要だと考えます。

 

7~8歳以上のシニア期の子は半年に1回、7歳未満の若い子は1年に1回健康診断を受けていただくことをおすすめします。 (文責:池田紘子)

☆今回の症例紹介は池田先生に担当してもらいました。主に腫瘍と循環器の勉強に取り組んでいます。お気軽にご相談ください。