犬の乳腺腫瘍

今回ご紹介する症例はヨークシャーテリアの10歳の女の子です。

写真のように大きなシコリが乳腺領域にみられます(点線)。

数ヶ月前から少しずつ大きくなってきたとのことで当院を受診されました。

犬の乳腺腫瘍は腫瘍のなかで最も多く見られ、その半数は悪性と言われています。

今回は、①徐々に大きくなってきていること②腫瘤が3㎝以上と大きい事から悪性腫瘍の可能性を考慮し、手術を提案しました。

事前にレントゲンや超音波検査で転移が無いことを確認し、ご家族も手術を決断されました。

犬の乳腺は腋窩から鼠径まで縦に長いことから、悪性が疑われる場合や多発している場合は切除領域が大きくなります。

今回は乳腺の末端に腫瘤が認められたことから、全摘出ではなく、尾側乳腺の領域切除を行いました。

切除範囲は写真のように非常に大きくなります。

縫合も写真のように非常に痛々しくなります。

病理検査では、線維腺腫という良性腫瘍で、この症例は幸いこれで根治となりました。


よくご家族の皆様から「手術前に良性と悪性は分からないのか」という質問をお受けします。

残念ながら細胞診や小さな組織を取る生検では、切除に比べて診断精度が劣ることから、確定的な結果は分かりません。

従って、乳腺腫瘍が見つかり、徐々に大きくなるようでしたら基本的には切除をお勧めします。

また、左の写真は別の症例ですが、乳腺に1㎝程の腫瘍があり、手術前のレントゲンで肺転移が確認された症例です。

わずか1㎝の乳腺腫瘍でも肺には3㎝程の転移が2ケ所も見つかりました(矢印)。

残念ながらこのワンちゃんは腫瘍の発見からわずか2ヶ月弱で脳転移により死亡してしまいました。

小さな腫瘍でも油断できない事を痛感させられた症例です。

乳腺腫瘍は早期に切除することが出来れば完治が見込める病気ですので、しこりに気づいた場合は早めに相談して頂くことをお勧めします。

また、犬の乳腺腫瘍は初回発情前の避妊手術で99%以上の予防効果が得られます。

2回目の発情の後でも70%ほどの効果はあるようですので、出産を考えない場合には早期の避妊手術をお勧めしています。

毎日のスキンシップもしこりの早期発見には大事ですね!