犬の口腔メラノーマ(悪性黒色腫)

口腔メラノーマ(悪性黒色腫)は、口腔内腫瘍のなかで発生頻度・悪性度ともに高い腫瘍です。進行が早く、発見された時にはリンパ節や肺に転移していることがあります。

発生部位としては歯肉が最も多く、舌や口唇などの皮膚粘膜移行部の粘膜面や軟口蓋にも発生します。

口からの出血や、よだれの増加、口臭の悪化で気づかれるケースが多いです。

メラノーマはメラノサイト由来の腫瘍のため、多くは腫瘍細胞にメラニン顆粒を含み、黒色あるいは褐色という特徴的な見た目でメラノーマを疑うことができますが(図の矢印)、この顆粒が乏しい場合(乏色素性メラノーマ)には口腔粘膜と同様の色をしており、見た目だけで判断することが難しいことがあります。

診断

診断のためには、まず細胞診検査を行います。(※状況により鎮静や麻酔処置が必要になります)この検査で特徴的なメラニン顆粒が認められた場合は診断がつきますが、認められない場合には切除生検を行い病理組織学的検査を実施します。

診断がついたら臨床ステージを評価するため、全身の精査を行い、転移の有無を確認します。この臨床ステージ分類を行うことで、進行度を把握することができ、予後や治療方針が決定します。

治療

治療は外科治療が第一選択となります。発生部位によっては腫瘤切除と同時に顎切除や鼻鏡の再建などが必要になることがあります。

完全切除が不可能な症例には腫瘤の縮小を目的に術前または術後に放射線治療を実施することがあります。外科治療や放射線治療を行っても根治がのぞめない症例に対しても、症例やご家族のQOLの改善のために部分切除を実施する場合があります。

遠隔転移を起こしている症例には内科治療を行います。しかしながら本腫瘍に対する有効な抗がん剤治療は確立されておらず、対症療法が中心となってしまうことがほとんどです。


当院での治療例

症例1:ミニチュアダックス、16歳

本例は口臭を主訴に来院されました。右下顎臼歯の歯肉に3~4cm大の黒色の腫瘤を認め、細胞診検査でメラノーマと診断しました。右下顎リンパ節は超音波検査で軽度の腫大を認めましたが、細胞診検査で明らかな転移所見はなく、臨床ステージ2と判断しました。本症例は高齢のため、口臭の軽減などのQOLの維持を目的に右下顎骨部分切除および右下顎リンパ節の切除を行いました(写真)。

ステージ2の場合、生存期間中央値は5~29カ月とされていますが、本症例は再発は認められず、術後10カ月に膵炎と衰弱のため亡くなりました。口腔内の状態は最後まで衛生的に過ごせたので、悪臭はなくなり、ご家族にとっても満足して頂けるような安らかな看取りができました


症例2:ポメラニアン、12歳

2例目は歯肉の出来物を主訴に来院されました。右上顎臼歯の歯肉に8mm大の黒色の腫瘤を認め、細胞診検査でメラノーマと診断しました。右下顎リンパ節には超音波検査・細胞診検査で転移所見はなく、臨床ステージ1と判断しました。根治目的で右上顎部分切除と右下顎リンパ節の切除を行いました。

ステージ1の場合、生存期間中央値は17~30カ月とされていますが、本症例は1年半以上経過しており、再発もなく良好に維持しています。


症例3:ミニチュアダックスフンド、16歳

3例目は食欲元気の低下を主訴に来院されました。軟口蓋に1cm大の不整な腫瘤を認め、細胞診検査でメラノーマと診断しました。

全身の検査で臨床ステージ2と判断しましたが、発生部位が軟口蓋であり、手術が困難な部位のため放射線療法を提案しました。しかし超高齢ということもありご家族と相談のうえ、緩和療法のみ行うことになりました。残念ながら本例は3カ月後に亡くなりました。


飼い主様へのアドバイス

メラノーマは予後が悪い腫瘍ですが、発見が早く、腫瘍が小さいうちに積極的な治療を行うことで数年生存が可能な場合があります。診察台では口を開けられることを嫌がる子が多いため、無麻酔では十分な口腔内観察を行うことが難しい場合があります。

普段から口を触る練習をしたり、歯磨きをする習慣をつけておくことで、おうちで口腔内の異変に気付き早期発見・早期治療を行うことが可能です。

また、高齢になると歯石がたまってくることで口臭が気になるかと思いますが、口臭が口腔内腫瘍のサインだったとしても、歯周病のせいかな?と見逃されてしまい発見が遅れるケースがあります。口臭の悪化や、よだれの増加、歯ブラシやおもちゃに血が付くなどの異常がありましたら、早めにご相談ください。


今回の記事は今井(池田)先生が担当致しました。

腫瘍科、循環器疾患に力を入れています。

どうぞよろしくお願い致します。