犬の肥満細胞腫

肥満細胞腫は皮膚や皮下組織に発生し、稀に粘膜や内蔵にも見られることがあります。肥満細胞腫と聞くと、『肥満』と関係しているように誤解されがちですが、肥満細胞は正常な体にも存在して、皮膚や粘膜で炎症や免疫反応などの生体防御の働きをしています。細胞の形が膨らんだように見えるため、『肥満細胞』と呼ばれているようです。

写真は肥満細胞腫の顕微鏡写真ですが、顆粒をたくさん含んでいることが分かります。肥満細胞はヒスタミンやヘパリンなどの生理活性物質を多く含んでいるため、腫瘍を触ったりすると顆粒が放出され、周囲組織の炎症が起きたり(ダリエ徴候)、出血が止まらなくなる事があります。

上の写真はいずれも肥満細胞腫の症例です。診断は侵襲の少ない細胞診で確定されることがほとんどです。皮膚に形成された腫瘍は悪性度分類法が確立されており、外科切除後の病理検査で判定されます。また、c-KIT遺伝子変異も悪性度と関連していることが示唆されており、組織学的グレードが悪い、もしくはc-KIT陽性の肥満細胞腫は手術後も補助的な抗がん剤治療や放射線治療が必要になることがあります。

上の写真は皮下の肥満細胞腫の症例です。円の範囲に腫瘍が触知されますが、肥満細胞腫の根治を目指すには拡大切除が必要で、マージンを2センチ確保するよう推奨されています。深部の筋膜も切除しなければなりません。そのため、小さな腫瘍でも傷はかなり大きくなります。ここまで大きく切除しても、悪性度の高いものは再発や転移を起こす場合があり、最悪の場合は死に至ることがあります。

術後の補助治療としてはc-KIT陽性の場合は、イマチニブトセラニブ(パラディア)という分子標的薬や、ステロイド薬を用いて治療します。術前の検査ですでに複数のリンパ節に転移がある場合や、拡大切除が困難と判断される場合にもこれらの薬を用いて治療を行います。