犬の会陰ヘルニア(便秘、しぶり)

肛門から陰部の付け根の領域を会陰部と呼びますが、この周辺の筋組織が萎縮し骨盤腔の脂肪や直腸、膀胱などが外に脱出する病気を会陰ヘルニアといいます。

中高齢の去勢していない雄犬に発症しやすく、症状はしぶり排便障害、排尿障害がみられます。肛門周囲が膨れ上がり、便が正常に出ないことに気づき来院されるケースが多くみられます。

診断について

触診で診断できる事がほとんどですが、どの程度の臓器が脱出しているか画像検査で評価する必要があります。また、腫瘍との鑑別が必要となるケースでは、細胞診などを行うこともあります。膀胱が脱出するような重度の会陰ヘルニアでは膀胱固定術などの処置も必要となるため、造影剤を用いたレントゲン撮影も行います。

 

治療について

軽度の症例は摘便や便軟化剤などを用いて温存治療とし、うまく付き合っていく事が可能な場合もありますが、通常は外科的な整復が必要です。

現在までにさまざまな術式が考案されており、骨盤隔壁を構成する尾骨筋や肛門挙筋、外肛門括約筋などを直接縫合する方法やメッシュなどのインプラントを用いて整復する方法などがあります。いずれの手術も再発や感染などの合併症を生じる場合があり、再手術が必要となる場合があります。また、お腹を開けて、結腸固定術や精管固定術などを併用すると再発予防の手助けとなります。


当院での治療例

症例1 ミニチュアダックス、9歳、雄

この症例は排便障害と鼠径部の膨らみを主訴に来院しました。

肉眼的にも肛門の外側と下腹部が大きく腫大しており、触診と画像検査でそれぞれ会陰ヘルニア鼠径ヘルニアと診断しました。

 

 

会陰ヘルニアの整復にはメッシュを用いて隔壁を作る方法を用いました。

写真右のように、尾骨の付け根から内閉鎖孔を通じメッシュを固定します。

また、結腸・直腸が脱出するのを防ぐために開腹し、腹壁に結腸固定を行いました。

本例は写真のように鼠径部にもヘルニアがあったので、そちらも閉鎖しています。写真のように腹壁に穴があり、腸が丸見えでした。

写真右のように、術前と比べて肛門の膨らみが消失し、排便もスムーズになりました。術後3年が経過しましたが再発や感染などの合併症もなく良好に過ごせています。


症例2 パピヨン、10歳、雄

本例は1週間便秘が続き、他院を受診した際に肛門に出来物があるといわれ、セカンドオピニオンで来院されました。

実際には出来物はなく、会陰ヘルニアにより、肛門の外側に多量の便塊が詰まっていました。写真のように指が深く入り込みます。

本例も同様にメッシュを用いた整復を行いました。術後、一時的に滲出液が出てしまいましたが、抗生物質で改善し現在も良好に保たれています。

症例3 ミニチュアダックス、12歳、雄

本例は数ヶ月ほど前から軽度の会陰ヘルニアによる排便障害がありました。時折便を摘出して管理していましたが、通院の頻度が増えてきたり、少量の出血を伴うようになったので手術をすることになりました。

結腸固定の様子。

本例も術後、再発や感染もなく良好に過ごしています。

 


飼い主様へのアドバイス

会陰ヘルニアは去勢していない雄犬に発症しやすく、若いうちに去勢手術をしておくと予防ができます。また、便秘や便が小さいなどの排便障害がみられた際には会陰ヘルニアの有無を動物病院で確認してもらうことも重要です。

様々な整復方法が考案されていますが、いずれの手術も再発や感染などの合併症が生じる可能性のある病気であり、症例によっては再手術を繰り返したり、完治が期待できないことも想定されます。当院ではメッシュを用いた比較的再発率の低い方法で手術を行なっておりますので、お困りの際はご相談ください。